BMSの細胞療法の未来は?

シニアバイスプレジデント兼後期臨床開発ヘッドのAnne Kerber、BMSの細胞療法研究の進展と今後の方向性を語る。

2023/11/08     
img01
まずは基本から始めましょう。CAR T細胞療法とは何ですか、どんな仕組みなのでしょう?


細胞療法は疑いなく、現在利用できるなかで最も個別化が進んだがん治療です。CAR T細胞療法の「CAR」はキメラ抗原受容体、「T」はT細胞の略です。T細胞は、体を病原から守る働きをする免疫細胞です。CAR T療法では、T細胞の遺伝子を改変して「CAR」を作り出します。キメラ抗原受容体は特定のがん細胞と正常な細胞の表面に発現するたんぱく質を認識し、これに結合します。T細胞療法には、自家T細胞を使うものと同種T細胞を使うものの2種類があります。化学療法などの従来のがん治療と違い、CAR T療法に用いる自家CAR-T細胞は、患者さん自身のT細胞を取り出して使用します。CAR T療法は、患者さんごとに個別化された治療法であり、T細胞の製造工程は極めて複雑です。細胞の採取、遺伝子改変、投与のプロセスを終えるのに数週間かかることもあります。

自家CAR T 細胞療法のプロセス

img02

白血球採取(アフェレーシス)
選定・活性化
遺伝子導入
CAR T細胞の増殖
投与

同種T細胞療法(「off-the-shelf」製剤)は、治験段階の次世代療法であり――患者さん自身ではなく——健常なドナーの遺伝子を改変したT細胞を投与することで、製造を待つ時間の短縮が期待できます。

BMSの細胞療法の進歩について、教えてください。


現在、2件のCAR T製剤の製造販売承認を取得している企業はBMSだけです。ひとつは、B細胞性悪性腫瘍におけるCD19(分化抗原群)を標的とするもの、もうひとつは多発性骨髄腫におけるBCMA(B細胞成熟抗原)を標的とするものです。私たちは、承認された国におけるCAR T療法の早期ラインでの使用、CAR T療法を使用できる(製造販売承認を受ける)国の拡大、BMSの製造能力の増強に取り組むとともに、濾胞性リンパ腫など他の血液がんの治療薬としても承認取得を目指しています。

製造プロセスの迅速化、効率化にも注力しており、CAR T製剤の製造期間を短縮できる可能性がある製造プラットフォーム「NEX-T」に投資しています。

このプラットフォームは、より安定性が高く強力な細胞型の増殖を目指して設計されたもので、さらに持続的な奏効を得られる可能性があります。

最も広く見られるループスである全身性エリテマトーデス(SLE)を対象として、現在進行中の臨床試験で、このプラットフォームを始めて使用します。これはがん以外の領域で当社初となる細胞療法試験であり、初期の研究データには期待が持てます。こうした患者さんに効果を発揮できるよう切に願っています。

 

 

細胞製剤の製造に伴う課題に、どのように対応していますか?


さらに多くの患者さんがこの療法の恩恵を受けられるようにするには、製造量を増やす必要があります。そのため、例えば次のような方法で、生産能力の増強と納品までの期間の短縮に取り組んでいます。

  1. 細胞製剤を製造する米国の4施設、現在建設中のライデン(オランダ)の1施設を含む、世界的な製造ネットワークの拡大
  2. 製造パートナーシップの強化とグローバル規模でのウイルスベクターの長期的な供給確保(その一環として、米国イリノイ州リバティビルの新施設で社内製造を開始)
  3. テクノロジーと自動化を活用した、複雑性の軽減、納品までの時間の短縮、安定性の向上
  4. この新たな治療クラスへの理解を深めるための規制当局との連携、業界基準の見直し、審査プロセスの効率化・円滑化

BMSは今年に入って、Cellares社独自のプラットフォーム「Cell Shuttle」を使ったCAR-T製剤の製造自動化を評価するために、Cellares Technology Adoption Partnership Program に参加しました。これが、費用効率に優れた拡張可能な製造手法になるかもしれません。

同種T細胞療法(市販製剤)の導入によって、生産能力の制約を克服できるのですか?


業界全体が同種T細胞療法に大きな期待を抱き、CAR T製剤をもっと短時間で患者さんの元に届けられるのではないかと考えています。同種T細胞製剤は大量生産が可能であり、患者さんががんと診断される前に製造することさえできます。受診時にはもう、投与できる市販製剤が準備されているかもしれません。

一方で、この療法への理解を深めるためには多大な研究が必要です。例えば品質管理、ドナーとレシピエントの免疫学的相性、反復投与を不要にするための持続性、規制当局の認可手続きなど、いずれに関しても知識を深め確立しなければなりません。

私たちは、同種・自家T細胞療法どちらも導入の余地があると考えており、患者さんにとって最も有望な治療法を求めて、スピーディかつ柔軟に取り組んでいます。

細胞療法で得た知見を、他の治療領域にどのように適用していますか?


BMSは、業界で最も急成長中のモダリティのひとつであるCAR T領域のリーダーとみなされています。細胞療法に関する私たちの研究開発、当初の対象であった血液がんのみならず、固形腫瘍、神経疾患、免疫領域へと拡大しています。

免疫領域では、免疫系のリセットが私たちの研究アプローチの鍵です。ループスや多発性骨髄腫などの疾患を対象とした、CD19を標的とするCAR T細胞療法の調査研究を推進し、がん研究で得た知見を自己免疫疾患に適用しています。

BMSの細胞療法ポートフォリオは業界で最も幅広く、BCMA、CD19、同じく受容体のひとつであるGPRC5Dを標的としたものや、BCMAとGPRC5Dに対する二重標的CARなど複数のアセットを保有しています。数千人の患者さんが参加するCAR T試験をはじめとする、.トランスレーショナル・リサーチや臨床研究から得られた豊富なデータを足掛かりとして、次世代の細胞療法の開発を進めています。

BMSの細胞療法研究で一番ワクワクする点は、どこですか?


答えは簡単です。飛躍的な進歩に向けて全力で取り組める点です。私たちは、画期的な有効性(transformational efficacy)を実現できるアプローチに重点を置いて、様々な標的、モダリティ、組み合せ、疾患領域にイノベーションを起こしています。限界を乗り越えて、患者さんのために重要な進歩を生み出したいのです。

細胞療法に関しては、血液だけでなく免疫や神経疾患の分野でも複数の計画が進んでいることにも期待しています。BMSは製造規模を拡大しつつ、二重標的CARや同種T細胞製剤をはじめ、細胞療法の最新技術をリードしています。

それが可能な理由は、ひとつには業界や学術界と協力しているからです。私たちは、あらゆる研究段階で100以上の提携を進め、イノベーションを可能にする新技術を手に入れています。

その一方で、医療従事者、患者さん、患者団体とのパートナーシップを築き育てることも大切です。そうすることで、社外の視点からアンメットニーズへの理解を深め、さらに効果的に対応できるでしょう。

細胞療法自体も実に刺激的です。BMSは、当社の知見を基に細胞療法領域の発展を後押ししています。私たちは、適切な戦略、人材、提携関係を通じて科学の力で患者さんの人生を文字通り変えられると信じています。ひと言でいえば、これはすごいことです。