テクノロジーの力を活用し、患者さんへより良い医療を
グレッグ・マイヤーズ(エグゼクティブバイスプレジデント兼チーフデジタル&テクノロジーオフィサー)
ブリストル マイヤーズ スクイブのGlobal Patient Week(世界患者さん週間)は、「サイエンスを通じて、患者さんの人生に違いをもたらす」という私たちの年間ビジョンの頂点であり、世界中の従業員32,000人以上が一堂に会し、私たちが日々寄り添っている患者さんを称える場です。2023年は、私たちが提携している患者支援団体と協力し、当社のリーダーシップチームのメンバーに、自身のチームが行っている活動が世界中の人々の生活にどのような影響を与えているかについて、それぞれの視点から語ってもらいました。
医師が患者さんにより良い医療を提供できるようになる未来は、計算で予測することができます。米国国立医学図書館によると、プライマリ・ケア医の平均診察時間は17.4分で、患者さんが話す時間は5.3分、医師が話す時間は5.2分とされています。残りの6分の大半はコンピューターへの情報入力に費やされていますが、これは、今後より一層「有意義な」使い方であると言えるようになります。
経験豊富な医師の場合でも、患者さんへ提供する見識やアドバイスは多くて30年程の診療経験に基づくものです。しかし、コンピューターを訓練すれば、1万人の患者さんの記録を10秒で確認することができます。症状や治療結果のパターンを導き出すよう、コンピューターに実績を多く積ませることで、医師たちの手に、かつてないほどの治癒力が宿ることになります。
これは患者さんにより良い治療を提供するためのデータの力を示す一例に過ぎませんが、ここでもう一つの例を挙げてみましょう。人間の皮膚科専門医は皮膚の良性腫瘍と悪性腫瘍を一般医よりも7倍正確に見分けることができますが、何百万もの皮膚の成長についてコンピューターを訓練することで、この人間の皮膚科医の能力に近づくことができます。皮膚科医、ましてやかかりつけ医を持つことができない世界中の人々が、データとデジタルテクノロジーの力によって、皮膚科医のノウハウに遠隔からアクセスできるようになる日も近いのです。
このようなデータに基づく「計算医学」は、患者さんのための医療を迅速に改善し、1960年以降の医学がそうであったように、世界の平均寿命をさらに20年延ばすことができると私は信じています。
より力のある会社を築く
このような計算をすることが、ブリストル マイヤーズ スクイブでエグゼクティブバイスプレジデント兼チーフデジタル&テクノロジーオフィサーとして社内外のデジタルトランスフォーメーションとテクノロジーを担当している私の仕事です。研究開発から製造、サプライチェーンに至るまで、会社の活動をより効果的に進めるために、当社の優秀なプロフェッショナルにテクノロジーを提供することが私の任務であり、私たちが、より生産的で、創意工夫に富んだ、より迅速な仕事をするため、そして何よりも患者さんを支えるという私たちの最大の使命を果たすための、テクノロジーの活用を任されています。
医療におけるデジタルトランスフォーメーションは、医師をより賢くし、患者さんをより健康にし、また、適切な医薬品を見つける可能性を高めます。では、もう一度計算をしてみましょう。人間の体には4兆個の細胞があり、それぞれの細胞には1兆個の分子があります。これは体内に7オクティリオンの原子があることになります。その原子のずれが、病気の原因、治療、予防につながります。研究者たちが薬を探すとなると、あまりにも多くのことを調査しなければなりません。そして人間の研究者が薬を調べる際に実験できる回数は、1日にわずか3回ほどです。しかし、人工知能(AI)と機械学習(ML)は1日10億回の実験を週7日行うことができます。人間の能力がデジタルテクノロジーによって補強されると、より多くのブレークスルーが起こるのは当然といえます。
注目すべきは、人間を「代替」するのではなく「補強」することです。対面で医師の診察を受ける時間は常に重要ですが、医師にアクセスできない土地に住んでいる人々のためのつながり・コネクティビティも重要です。医師の経験と直感がなくなることはありませんが、医師が導き出す結論は、何百万人もの患者さんと何十億回もの検査や実験から学習してきた「デジタルドクター」の知恵によってもたらされるようになります。
目的を再発見
テクノロジーにより、強力な医薬品の発見、病気の治療、診断、そして治癒における真のブレークスルーが起こることは、必然といえます。未来ではなく現在の話を例として挙げると、mRNA技術を用いたCOVID-19ワクチンの迅速な開発があります。2020年、前例のないスピードでのイノベーションと患者ケアにおけるデジタルテクノロジーの大きな可能性を目にし、私は今年1月にブリストル マイヤーズ スクイブへ入社しました。誰もが人生の目的を追い求めていますが、パンデミックによって、患者さんの生活をより良いものにすることこそが私の目的であると明確になったのです。
この15年間で、製薬業界におけるデジタルヘルスケアの可能性に対する考えは、懐疑的なものから熱意へと変化しました。かつては、伝道者のような気持ちで未来はデジタルだと同僚を説得していましたが、今では私たち全員が同じ方向を向き、患者さんの生活をより良くするための最も迅速で確実な方法としてデジタルテクノロジーに注目しています。
ここで述べてきたようなブレークスルーは目前に迫っていますが、強力な医薬品の探求も、世界のどこでも最高の医療を提供できるよう医師の能力を強化するデジタルテクノロジーの応用も、まだ始まったばかり、野球で言えばまだ2回表です。これらは壮大な夢ですが、実現できると信じています。